相続の基礎知識 < 11.相続放棄の申立て
■ 相続放棄は、3ヶ月という期限に注意!
相続放棄の期限
相続放棄は、相続が開始したことを知ったときから3ヶ月の考慮期間内に、一定の方式のもと、
家庭裁判所に対する申述をしてしなければなりません。
この3ヶ月という考慮期間(熟慮期間ということもあります)は、
民法915条によって「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」とされていますが、
判例は、相続人が、相続開始後1年近くが経過してから債権者の請求によって多額の債務があることを知って、
それから相続の放棄をした場合に、被相続人に相続財産が全くないと信ずるに相当な理由があるときは、
例外的に相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時または通常これを
認識できる時から起算するのが相当として、相続放棄の申請を認めています。
仮に3ヶ月が経過していても、あきらめることはありませんが、
判例の措置は例外的なものと考え、そのような場合は専門家に依頼することをおすすめします。
なお、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知ったときから
3か月以内に相続財産の状況を調査してもなお、相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には、
申立てにより、家庭裁判所はその期間を伸ばすことができるとされています。
相続放棄の申立手続き
相続の放棄は、相続の開始後3ヶ月の考慮期間内に家庭裁判所に申立てることによって
することができます。 申立の要点を以下にまとめてみます。
1.申立先の家庭裁判所
申立て先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所の管轄は裁判所のサイトで調べられます。
2.申立人
相続人から申し立てます。相続人が未成年者または成年被後見人である場合は、
その法定代理人(親など)が代理して申立ます。
ここで注意して欲しいのは、次の2つのケースです。
(1) 未成年者と法定代理人が共同相続人となっている場合で、未成年者のみが相続放棄をする場合
、(2) 複数の未成年者が相続人の場合で、その法定代理人が一部の未成年者を代理して相続放棄をする場合
この2つのケースに該当する場合には、当該未成年者について特別代理人の選任が必要です。
特別代理人の選任も家庭裁判所に対して申し立てます。
3.申立にかかる費用
申立人1人につき収入印紙800円分
連絡用の郵便切手(申立先の家庭裁判所に確認します)
4.申立に必要な書類
(1) 相続放棄の申述書(裁判所のサイトでダウンロードできます。)
(2) 申立人の戸籍謄本
(3) 被相続人の除籍謄本
(4) 被相続人の住民票の除票
*これら以外にも事案によって必要となる書類があります。
相続放棄の効果と注意点
相続の放棄をすると、
その者は最初から相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。
その結果、相続の欠格・廃除などでは認められていた代襲相続も、
相続放棄の場合には認められません。
また、最も注意が必要な点は、同じ順位の相続人が全員相続放棄をした場合、
相続権はその次の順位の相続人に移ってしまうことです。
例えば、父親が死亡して相続が開始し、第1順位である子供が全員相続放棄をした場合、
相続権は第2順位である祖父母に移ります。つまり、借金しかなかった場合、
子供が借金を背負わないために相続放棄をしても、その借金を祖父母が負わされることもあるということです。
さらに祖父母が相続放棄をした場合は、さらに第3順位である兄弟姉妹に相続権が移り、
兄弟姉妹が借金を背負うこともあるのです。
このような場合には、配偶者及び第1順位から第3順位までのすべての相続人において、
順番に相続放棄の手続きを行う必要があります。必要に応じて、後順位者の相続人に声をかけるなど、
注意する必要があります。
なお、第1順位から第3順位までの相続人が同時に相続放棄を申し立てることはできません。
これは、第1順位の相続人が放棄をするまでは、第2順位の人はまだ相続人ではないからです。
よって、全ての順位の人が相続放棄をするときは、第1順位から順番に相続放棄の手続きをとっていくことになります。
また、夫が亡くなって妻に全ての財産を相続させたいような場合、
その子供が相続放棄をしても、夫の父母又は祖父母や兄弟がいる場合は、
やはり順番に相続放棄をする必要があり、手間がかかります。
後順位者が相続放棄をしてくれない場合は、目的を達成できないことすらありえます。
このような場合は、配偶者と子供で遺産分割協議をする方が無難でしょう。
ただし、借金などマイナスの財産がある場合は要注意です。
遺産分割で配偶者が借金を全て支払うと決めても、債権者が子供に請求してきた場合、
その請求を拒むことはできませんので注意して下さい。
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